ニャオニクスな日々

夫婦でポケカやっています

禁止カードが生むドラマ ~Damage アンノーン とMoMa~

今のゲームは3つのステップに分かれている。
第一段階(序盤)がコイントス
第二段階(中盤)がマリガンチェック。
第三段階(終盤)が――先手第一ターンだ。

引用元: MoMa - MTG Wiki

これは20年前の冬、MtGMoMaと呼ばれるコンボデッキが猛威を振るった際に生まれたジョークです。最初に誰が言ったかは分かっていないようで、おそらく今後も特定されることはないでしょう。カードプールの狭いスタンダードでさえ1ターンキルの確率が5%とも8%とも言われたデッキであり、当時誰もがこれに似たことを口にしていたからです。

2/1からDamage アンノーンが国内エクストラレギュレーションで禁止になります(海外は2/15)。2ターン目に、妨害しづらい形でゲームを終わらせることのできるこのデッキは、先週行われたシティリーグ大阪で優勝し、見事に有終の美(?)を飾りました。この光景を見て思い出したのが、冒頭のジョークです。

MoMaについては、1998年10月に大型エキスパンション「ウルザズ・サーガ」が発売された直後からそのヤバさが指摘されていました。瞬く間にデッキレシピは洗練され、運営サイドはいくつかのキーカードを99年1月発効で禁止カードに指定します。わずか2ヶ月ちょっとの命でした。

ところが国内では当時年末に国内の構築戦最強を決める「Finals」と呼ばれる大型大会が開かれていました。翌月から使えない明らかに強いデッキが、月末の大会でギリギリ使える。まさにDamage アンノーンに似た状況です。

一方でMoMaとDamage では大きく異なる点もあります。Damageはベスト8に1人のみ、全体でもデッキ選択者は多くなかったようです。ところがMoMaはFinalsベスト8中6人が使用し、キーカードのトレイリアのアカデミー(翌月から禁止)に至っては8人全員が採用していました。そもそもベスト8に2人もMoMA以外のアーキタイプが食い込んだこと自体が当時強い驚きをもって迎えられたのです。

特にそのうちの1人はコンボデッキですらない、トリコロールウィニーと呼ばれる今で言うアグロ的なデッキで、MoMaのキーカードを徹底的に壊しつつ盤面を取って殴るタイプです。禁止カードという形で公式が認めた「最強」デッキがある中、メタカード満載とはいえこうした古典的なデッキが上位に入ったことは、1つのドラマでした。当時僕もベスト8にいたこのトリコロールウィニーを見た時、興奮を通り越して感動した記憶すらあります。冒頭に引用した通り、1ターン目が「終盤」な時代です。そもそもクリーチャーで素直に殴るデッキ自体が死に絶えています。そんな状況で、自分だったらこのアーキタイプを握ろうという発想がそもそもできるだろうか。仮にデッキアイデアが生まれても、使う勇気があるだろうか。そう自問した時、「すげえ!カードゲームめっちゃ面白いな!」と思ったのです。

ミクロに見ればMoMaやDamageといったコンボデッキを相手にすることはいわゆる「壁とやってろ」案件であり、決して面白くはないと思います。一方でマクロでみると、こうした想定外のミラクルを生むケースもあります。

なおもうひとつMoMaとDamage で異なる点は、Damage がアンノーンの禁止でアーキタイプ自体が息の根を止められたのに対し、MoMaが形を変えて99年1月以降も生き長らえたことです。そもそもMoMaというデッキ名はキーカードの1つであるMind over Matter(日本語名:精神力)の略です。このカードは99年1月発効の禁止カードリストに含まれていませんでした。Damage で例えるとアンノーン自体は禁止されず、クレッフィマニューラを使った無限ループが禁じられたと考えてもらえると近いかもしれません。

初期のMoMa は(最初に禁止された)「トレイリアのアカデミー」という、1ターンに多くのマナを生み出せる土地を、精神力で1ターンに複数回使えるようにし、そこから生み出した膨大なマナで相手の山札を切らしたりライフを削ったりするデッキです。精神力自体は土地以外も複数回使用させることが出来るため、トレイリアのアカデミーが禁止されても他に多くのマナを生み出しうるカードがあれば、速度は下がるものの似たことは出来ます。

実際、MoMaはその後も禁止カードの束を作りながら、中期型・後期型と形を変えて環境に君臨し続けます。99年7月に精神力自体が禁止され、スタンダードにおいてはその歴史に終止符を打ちました。

禁止カードで直接的にアーキタイプを1つ消してしまうことは、プレイヤーの考える余地を強く消してしまうことにもなります。そうした配慮もあって精神力はなかなか禁止されなかったのかもしれません。一方で精神力が禁止されるまでの半年の間に
・99年1月 トレイリアのアカデミー/意外な授かり物
・99年4月 時のらせん/ドリームホール/睡蓮の花びら
・99年7月 精神力
と(精神力含めて)6枚もの禁止カードが、それも1つのアーキタイプによって発生する事態となっており、それはそれで問題があったとも言えます。Damage についても対処を間違うとこうした事態になっていた可能性があり、環境コントロールの難しさを感じます。

もちろん禁止カードは無い方が良いに決まっていますが、環境へのインパクトが強いイベントであるがゆえに、様々なドラマや波紋を歴史に刻み込むことがあります。後からこうしてマクロな視点で振り返ると、そのカードゲームの歴史を感じることができ、プレイするのとはまた別の面白さを感じることができます。